プラズマシミュレーション研究室

乱流と輸送

乱流とは

乱流は,流体が一度動き出せば発生する普遍的な現象である.日頃常々経験しているように,コーヒーに注がれたミルクは複雑な振る舞いを示す.コーヒーとミルクをかき混ぜるのは,経験上,乱流によってそれらが早く混合されることを知っているからである.巨大な空間スケールの極限における乱流の例として,重力に支配された天体がある.電磁力が支配的な核融合プラズマもまた,乱流の顕著な例である.核融合プラズマの場合は,乱流はプラズマを容器に閉じ込めておくことを難しくする.

コーヒーカップの中の乱流
コーヒーカップの中の乱流
かに星雲
かに星雲 (超新星爆発の残骸)
[HUBBLESITE より転用]
プラズマ中の乱流
プラズマ中の乱流
[evl から転用]

乱流とは,時間的空間的にランダムに変化する流れ場である.明確に乱流を定義するのは難しいが,乱流には二つの重要な性質がある.一つは,初期条件に対する鋭敏な依存性である.層流と異なり,乱流は不安定で,初期の状態が僅かに異なると,その振る舞いはまったく違ったものになる.ある時刻に,僅かに異なる二つの流れ場を考えると,それらの流れ場の差異は,時間とともに指数関数的に増大し,最終的に全く異なる流れになる.乱流を制御して,同一の流れ場を作ったり,乱流の長時間の挙動を予測したりすることは不可能である.乱流のもう一つの特徴は,強い混合性にある.コーヒーに注がれたミルク,大気中の汚染物質,風呂のお湯の温度などは,乱流によって速やかに拡散する.ジェットエンジンでは,燃料と酸素をうまく混合してやると,燃焼効率が増す.

乱流を理解することは,人々の生活に大いに役立つと言える.レイノルズが乱流を"発見"して以来,乱流研究に多大な努力が費やされてきた.ロシアの数学者コルモゴロフによる乱流の理論(1941)は,もっとも重要なものの一つに挙げられる.コルモゴロフは,乱流に隠された統計的性質に注目した.レイノルズ数が高い発達した乱流において,外力や粘性による散逸によらない「慣性領域」が存在し,そこではエネルギースペクトルが「-5/3乗の法則(Ekk-5/3)」に従うというものである.このコルモゴロフの相似則は乱流の観測結果と驚くほどよく一致する.乱流研究の目標は,複雑な乱流の裏に隠された,このような普遍的な法則を明らかにすることである.

修正2次元長谷川-若谷モデルの数値シミュレーション

修正長谷川-若谷(HW)モデルはトカマク端部のプラズマにおける静電的抵抗性ドリフト波乱流を記述するモデルであり,強い背景磁場,非一様密度分布中での,静電ポテンシャル(φ),密度(n)の揺らぎの時間発展方程式として与えられる.HWモデルは,磁場に平行方向の電子の電気抵抗を含んで長谷川-三間モデルを拡張したモデルである.この平行方向の電子の運動に起因して,渦度(ζ=Δφ)と密度の運動は,オームの法則を介して,カップルする.[長谷川-三間モデルにおいては,電子の電気抵抗は無視できるほど小さく,電子はボルツマンの関係(n=φ)に従う.]

"修正"とは,もとのモデルに対して,ポロイダル方向に一様(帯状)な揺らぎの成分の取り扱いが異なることを指す.2次元版のHWモデルにおいて,電気抵抗を介した渦度と密度のカップリングの効果は,帯状成分には働かないため,カップリング項から差し引いておく必要がある.

修正2次元HWモデルにおける帯状流の形成
修正2次元HWモデルにおける帯状流の形成

上の図は,修正HWモデルを数値的に解いて得られた,ポロイダル平面におけるφ, n, ζの時間発展の様子を示している. 静電ポテンシャルは,プラズマの流れ関数に他ならないので,φの等高線はプラズマの流れを表すことになる.ポロイダル方向(図中ではy方向)に一様で対向する流れが,乱流相互作用によって,自発的に形成されている様子が見て取れる.

[帯状流という用語は,もともと地球や木星の大気の研究から来ている.]

修正長谷川-若谷モデルにおける分岐

ドリフト波乱流によって帯状流にエネルギーが注入され,帯状流が高いエネルギーを持つようになると,不安定性が発生し,それによって帯状流の構造は細かい渦に分解され乱流になる.すなわち,最終状態として,(上の図のような)帯状流を観測するか,乱流状態を観測するかは,系のパラメタによって異なる.下の図は,数値シミュレーションによって得られた最終状態を,καで表される図にプロットしたものである.(κは乱流駆動の強さを,αは電気抵抗による散逸率を,それぞれ表すパラメタである.)

Bifurcation Diagram in MHW Model
修正HWモデルにおける分岐図
[Reprinted with permission from R. Numata, R. Ball and, R. L. Dewar, "Bifurcation in electrostatic resistive drift wave turbulence," Phys. Plasmas 14, 102312. Copyright 2007, AIP Publishing. This article may be downloaded for personal use only. Any other use requires prior permission of the author and the AIP Publishing.]

乱流がより強く駆動される(κが増加する)か,または,電気抵抗による散逸が弱くなる(αが減少する)と,系はより乱流状態になり易い.緑と赤の線は,理論的に予測される安定性の限界を示している.すなわち,緑[赤]の線を越えると,ドリフト波(帯状流)が不安定になる.図から,系は帯状流の不安定性が起こるまでは,乱流ではなく,帯状流が支配的な整った状態であることが分かる.この乱流発生の臨界点がシフトする現象は,別の(イオン温度勾配駆動による乱流)モデルにおいて,「Dimitsシフト」として知られている現象と類似の現象である.

参考文献

  1. Bifurcation in electrostatic resistive drift wave turbulence,
    R. Numata, R. Ball, R. L. Dewar, Physics of Plasmas 14, 102312 (2007).